(g)に進みましょう。付帯状況なんて言われる文法事項です。withのあと前置詞の目的語と呼ばれる名詞(だからOと書いてあります)がきて、その後に分詞が続きます。そして「Oを~しながら」と訳します。
このときの分詞の選択が問題になります。どんなときに現在分詞かどんなときに過去分詞か。今から説明します。
私は数十年前にこの仕事を始めた当初、この分野をさまざまな方法で生徒に指導していました。最初の頃は、けっこう小難しいことを言っていた記憶があります。でも、ネイティブはそんな難しく考えていないはずなんです。というのも、会話をする時は一瞬の判断で話しているからです。頭でっかちに「これはこうこうこうだから、ここは現在分詞だ」なんて考える時間なんてないはずです。
そこで私はいつものようにネイティブに質問しました。例文をいくつか提示して、「これはどうして現在分詞? これはどうして過去分詞?」と質問攻めです。
するとネイティブは「そんなこと考えたことないけど……」といういつもの枕詞のあとに回答をくれます。
つまり彼らは考えて話していないんですね。私たちも日本語を話すときにいちいち文法的にどうだとか考えていないですよね?あれと同じです。
今回はネイティブの考えを聞いて、私は今までの指導の仕方が全く意味なかったと愕然としました。昔の生徒には本当に申し訳ないことしました。ごめんなさい。この場を借りて謝ります。
さて、話を戻します。
<with + O + 現在分詞>か<with + O + 過去分詞>か。これは目的語(O)が動いているか止まっているかでネイティブは判断しています。これなら一瞬で判断できますね。納得です。
例文を一つ一つ見ていきましょうか。
例文を上から4つ日本語訳しましょう。現在分詞が2つ、過去分詞2つです。最後の一つはまだ( )の中の単語が書いていないので後にとっておきます。
どうぞ。
「Oを~しながら」のように訳してください。
一番上は、「彼女の髪をなびかせながら」
二番目は、「涙をながしながら」
この現在分詞は、目的語にあたるものが「動いている」のがわかりますか? 髪や涙です。髪が風などに吹かれて「動いている」様子や、涙がほほをつたって「動いている」のが想像できると思います。
三番目は、「彼の足を組みながら」
四番目は、「彼の腕を組みながら」
この2つは過去分詞ですが、目的語にあたるものが「止まっている」と思います。足や腕です。足を組んだり、腕組みをしているときに足や腕は「止まっている」はずです。そんなときは過去分詞なんです。
さぁ、それでは最後の例文( )内のblinkは現在分詞でしょうか。過去分詞でしょうか。上の説明をふまえて考えてみましょう。
どうぞ。
できたら日本語訳もしておいてください。blinkは「まばたきをする」です。「動いている」か「止まっている」かを考えてください。
正解は、blinkingです。まばたきをするとまぶたが動いていますね。だから現在分詞です。「彼女の目をまばたかせながら」とか「目をまばたきしながら」のような訳にしてください。「目をぱちぱちしながら」とか「目をぱちくりしながら」などでもいいですね。
前置詞の目的語が動いていれば現在分詞、止まっていれば過去分詞というように会話するネイティブにとっては直感的に判断できるものなんですね。そりゃそうです。一瞬で判断して会話しなければならないんですから。いや、そもそも判断なんてしてないですね。見たまんまを話しているだけなのでしょう。
「動いている」のは進行形と親和性が高く、現在分詞。
過去分詞はその動作が終わって「止まっている」ので完了形や受動態と親和性が高い過去分詞。
前置詞の目的語とその後の分詞が「主語+動詞の関係」なら現在分詞、「受け身の関係」なら過去分詞とそこらの教科書や参考書に書いてあるように理解してしまうと混乱してしまうケースがあります。
例えば、最初の例文with her hair wavingを見てみましょう。
「彼女の髪がなびく」だから「主語+動詞の関係」で現在分詞だと考えていくと、あれ? 彼女の髪は自らなびくわけじゃなくて風によってなびいているんじゃないか?「彼女の髪は(風によって)なびかれる」だから「受け身の関係」で過去分詞じゃないかとドツボにはまっていきます。
だから、そんな考えはやめましょう。その動作が続いて「動いている」なら現在分詞です。
そこでテキスト66ページの(f)の使役動詞の話です。このテキストの一番上ですね。
使役動詞で現在分詞がくるパターンというのが少ないという話をしました。「基本的には『現在分詞はこない』と覚えちゃっていいです」と言いましたが、「その動作が続いて『動いている』なら現在分詞」と理解すると納得できるかと思います。
二つの例文を見てください。水を流しっぱなしにしていると水が「動いています」ね。機械を動かしていると機械が「動いている」のがわかります。見た目で簡単に判断できるのです。
つまり、「動いている」なら現在分詞というのは使役動詞や知覚動詞でも使えるってことなんです。ネイティブは見たまんまを話しているってことです。
最後に、<with + O + 分詞>のかたちで、一見すると動いていないのに現在分詞のこともあります。
with your hands(palms) facing upwards「あなたの手(手のひら)を上へ向けながら」
手を上へ向けていると手は「止まっている」と思います。動いてはいないですね。それでも現在分詞です。
これは「上を向く」という手の動作が続いている、進行しているイメージで考えてください。だから現在分詞なんです。
「腕を組む」や「足を組む」というのは、「組む」という動作は続いて、進行しているのではなく、組んだあとの状態が続いているだけです。「組む」という動作が続いて、進行している時は腕や足が組んだり、戻ったり、そしてまた組んだりと絶え間なく動いている時です。気をつけてください。